ステイタスについての考察

 アストレア・レコード2巻の輝夜さん特典ssや、多分その他の部分でも明言されていると思いますが、ダンまち世界において『ステイタス』は、遺伝という先天的なものによる影響を大きく受けることが多いようです。

 作中で公開されるステイタスを見るに実際その傾向は強いと思いますし、特にアビリティや発展アビリティよりも、『魔法』や『スキル』は、親兄弟で似通ったものが発現することが多い傾向があるらしいですね。

 

 

 そこで、いくつかのキャラをピックアップして『ステイタス』の中でも特に個性が出やすい『魔法』と『スキル』を抜き出し、

 

『遺伝』という先天的要因によって発現するもの

『環境』や『本人の努力、経験』というような、後天的要因によって発現するもの

 

に分類し、ステイタスについての知見を深めることで、作品をより楽しむ視点を持とうと考えました。

 

 というわけで、さっそく考察していきたいと思います。

 

 

 

事例1

ヒリュテ姉妹(ティオネとティオナ)

 

 お手元の外伝3巻と4巻を見比べていただけると分かりやすいですが、

 ティオネは『憤化招乱』(バーサーク)、ティオナは『狂化招乱』(バーサーク)と、同じ読みでほぼ同じ効果の『スキル』が発現しています。

 これは遺伝による発現、つまり先天的な才能による『スキル』と見て問題ないと思います。

 

 もう一つあるスキル、ティオネの『大反攻』とティオナの『大熱闘』ですが、どちらも「瀕死時に効果を発揮するアビリティ補正」となっており、やはり似通っています。

 ただティオネはどちらのスキルも『怒り』という感情をキーにして効果が上昇する一方、ティオナにはその辺の制限などはありません。

 

 しかしこの二組のうちの特に後者(『大反抗』と『大熱闘』)は、二人の過去を踏まえるとある意味似通うのは当然のスキルとも言えるので、

・環境による後天的スキル発現である可能性

・遺伝によって元々あった才能に、環境が関わって微妙に形を変えて発現した、という可能性

・ティオネの元来の怒りっぽい性格、内に秘める激情や好戦欲のようなものがスキル発現に関わり、本来遺伝のままならばティオナのスキルと同じだったが、ティオネの生まれ持った性質によってスキルの形が変化した、という可能性

 

などが挙げられるかと思います。

 

 なんにせよ、必ずしも先天的な要因だけでスキル内容が完全に決定されるわけではない、という有用な事例であると思います。

 

 

事例2

ベル・クラネル

 

『憧憬一途』

 

 スキル発現が「初めてのステイタス更新」のタイミングではなく、「アイズ・ヴァレンシュタインに助けられた時」なので、ベルの性格由来、つまり後天的要因のスキルであると思われます。

 しかし着目すべき点として、「成長限界を突破する」という効果が、叔母……義母のアルフィアが持つ『スキル』(恐らく『才禍代償』の効果だと思われるが明言はなかった気がします)にも見られることが挙げられます。

 『憧憬一途』は「才能という成長限界の撤廃」「アビリティ評価値という成長限界の突破」「魅了無効」というぶっ壊れた効果がついているスキルですが、「アビリティ評価値の限界突破」に関しては、血統の影響もあるのかもしれません。

 

 何にせよ、「アイズ・ヴァレンシュタインに追いつく」「その目標は美の神の『魅了』というチートにだって邪魔させない」という、荒唐無稽な夢を現実にできる力を持った、本人の願望を叶えるためのスキルですね。

 

【ファイアボルト】

 

 魔導書によって発現したものであるため後天的要因です。

 魔導書によって見せられた夢との問答から分かるように、遺伝が関わるものではなく、本人の性格由来の魔法です。

(『雷と炎』という要素からは、ベルの前世(だと思われる)アルゴノゥトの影響を感じざるを得ないことや、転生や魂が実在する世界観である以上、『遺伝』ではなく、『魂』という先天的要因も考慮に入れるべきかもしれないという点は、キリが無くなるので無視します)

 

『英雄願望』

 

 ミノタウロス戦後、Lv.2になるステイタス更新で発現したスキルですが、本人の中で「英雄になりたい」という願望がハッキリと形を持ち、そのための冒険を恐れなくなったことが発現のキッカケだと思われるので、後天的要因によるものと断定していいと思います。

(ベルが最も憧れる英雄であることを差し引いても、アルゴノゥト、というスキルの読み方が前世を想起させるし、魂による先天的要因が関わっているのでは、という点は無視します)

 

 

 「どんな敵にも勝ち目を生み出す英雄の一撃である」というヘスティアによる本質の見極めが正しければ、まさしくベル本人の「英雄になりたい」という願望を叶えるために発現した、英雄への切符であるのでしょう。

 本人が必要とする力を提供する、ステイタスの形として非常に合理的かつ親切なスキルだと思います。

 

『闘牛本能』

 

 アステリオス戦後、Lv.4になるステイタス更新で発現したスキルですが、これは後天的要因によるスキル発現だと断定できます。

 ミノタウロスとの因縁と、何よりベルの中で、アステリオスに負けたことが強く心に残り、魂にまで刻まれたからこそスキルの発現に至ったのでしょう。

 再戦と、次こそは勝利をという誓いの形であり、アステリオスとのステイタスの差を埋めるためにこのスキルが発現したとするならば、『憧憬一途』や『英雄願望』と同じように、本人の望みを叶えるために発現した、とてもいいスキルですね。

 

『美惑炎抗』

 

 女神フレイヤが作った箱庭での経験から発現したスキルですね。後天的要因によるスキル発現だと思われます。

 これは今まで発動したらしい場面がないので、19巻現在、どういう効果なのか説明こそあれど全く分かりません。

 

 

 ベルの事例から、

『本人に全く才能がなくとも、それだけの環境や経験があれば、後天的な要素でスキルや魔法をいくつも発現させることができる』

『後天的なスキルや魔法は、先天的なものよりも、本人の気質に合わせたものが発現するため使いやすい』

ということが言えると思います。

 

 

事例3

ヴェルフ・クロッゾ

 

『魔剣血統』

 

 血統によって発現すると思しき『○○血統』というスキルは、他にもいくつか種類が見られます。

 アーディの『守人血統』、輝夜の『殺剣血統』、ヘディンの『聖女血統』、類型としてはリヴァリアの『妖精王印』もありますね。

 

 血統に関するスキル、恐らく何か特別な役割を持つ一族だけに発現するスキルなのでしょう。ダイダロスの一族も持ってそうです。

 

 『魔剣血統』の効果については省きますが、これはクロッゾの一族ならば誰でも発現するというわけではなく、魔剣の生み出す富と力に溺れず、鍛治師としての信念をしっかり持っている者のみに発現するものであると思われます。

 ヴェルフの持つ『魔剣血統』は、血統関連のスキルの中では特殊な事例と考えていいでしょう。

 例えばアーディがガネーシャ以外の神に改宗した場合、『守人血統』が消える可能性はそれなりにあると思います。

 クロッゾの一族がそうであったように、「ある日突然効果を失う可能性がある」というスキルでもあるのでしょう

 

 

 ヴェルフ、というよりはクロッゾの一族という事例から、

『血統という遺伝の先天的要因によって発現するスキルは強力なものが多い傾向にあるが、本人の気質や性格、経験や選択によっては効果を喪失する可能性もある』

ということが分かりますね。

 

 

事例3.5

ディックス・ペルディクス

 

 『魔法』である【フォべトール・ダイダロス】のみ判明しているため、これを抜き出しますが、魔法の効果と『ダイダロス』という名前が魔法名にあることから、先天的要因、それもダイダロスの一族由来であるらしいことが分かります。

 謎が多いダイダロスの家系ですが、仮にもし、この強力な呪詛をダイダロスの一族が例外なく先天的に習得することができる」と考えた場合、とても恐ろしいことです。

 ディックスの兄弟であるバルカがこれを使った描写はありませんが、作中で使う機会がなかっただけで、持っていた可能性はありますね。

 

 血統由来のスキルや魔法は、本人の性質に関わらず発現させることができると考えるとこれはとても恐ろしいことです。

 恐らく、「血統由来のスキルや魔法は強いものが多い」という表現は正確ではなく、

「強いスキル、魔法を発現させられる血統は、結果的に長生きしやすく、子孫が安定して繁栄しやすい」

という方が正しいでしょう。

 同じスキル、同じ魔法が子孫にも発現する場合、その使用方法やノウハウが一族に蓄積されるため、一代で終わる後天的な魔法やスキルと比較すると有利に働きやすいというのもあるかもしれません。

 

 

事例4

リュー・リオン

 

 魔法が3つ、スキルが4つと大変なことになっているので、特筆すべきものを抜き出します。

 

『正義継巡』

 「アストラエ・ヴァルマス」というスキル名からも察することができますが、アーディ・ヴァルマから継いだ(巡った)スキルだと思われます。

 後天的スキルであることは言うまでもないですが、驚くべき点はアーディの『正義巡継』(ダルマス・アルゴ)と効果が似通っている点です。

 

 大森先生曰く、「アーディの『正義巡継』は黒竜戦の必須スキル」ということであり、それを抜きにしてもかなりのぶっ壊れスキルですが、これを『継承』という形でリューが発現させられるというのは、なかなかにとんでもないことです。

 

 ステイタスは部外者に漏らさないことは当たり前、ましてやバレやすい『アビリティ』や、使っているうちにバレてくる魔法と違い、『スキル』は冒険者にとって最も秘匿しやすい、対策が練られにくいものです。アーディがこっそり教えていたという線もあるにはありますが、教えていないと考える方が自然です。

 つまり、「効果を知らないはずのアーディのスキルを継承した」という、オカルトじみたことがリューのスキル発現に関わっている……ように見えます。

 

 

 しかし、これは特に不思議なことではありません。

 アーディの「正義は巡る」という考え方、この現れこそが『正義巡継』というスキルだったのならば、その考え方を継いで、先に進めていくというリューの意志もまたスキルになり得ます

 同じ思想、同じ思いがあるのならば、同じようなスキルが発現するのは自然です。

 「正義は巡る」という考え方だからこそ起こった例外的な事例かもしれませんが、「人の想いを継ぐ、受け取って先に進める」ということに真摯に向き合えば、こうした経緯での後天的スキル発現も可能ということですね。

 

 

 ついでに言及しておくと、アーディのこの「正義は巡る」という思想は、アルゴノゥトに感化された(教えられた)ことだと、アストレア・レコード2巻のアニメイト特典ssで書かれています。

 アーディの『正義巡継』の読みに「アルゴ」というワードが入り、リューの『正義継巡』に「ヴァルマ」というワードが入っていることを考えると、「正義は巡る」という言葉は

 

アルゴノゥト → アーディ → リュー

 

という過程を踏んでいることが分かりますね。

 そしてリューからベルへと巡っているのが、本編という繋がりなのだと思います。

 

 リューの魔法、【アストレア・レコード】についても似たことが言えます。

 思想の継承、想いの継承、それもまた個人に大きく影響を与え、それがステイタスに影響します。後天的要因によって発現したぶっ壊れ魔法です。

 

 

事例6

アイズ・ヴァレンシュタイン

 

『エアリエル』

 非常に強力なエンチャントの魔法ですが、『精霊の血』由来であることが明かされています。先天的要因による『魔法』ですね。

 

『復讐姫』

 詳細は明らかになっていませんが、アイズが抱く黒竜への、モンスターへの憎悪、復讐心によって発現したスキルであり、つまり経験による後天的要因でのスキル発現ですね。

 ただ、「モンスターへの憎悪」というものを抱いている人間は多いはずですが、その中でこういった強力なスキルを発現させているのは、現在作中で明らかになっている範囲ではアイズだけです。

 本編、外伝でもしばしば描写されていますが、それが余程の体験であり、余程の憎悪であるのでしょう。

 似た形では、四肢をモンスターに食われた経験から、モンスターへの恐怖心とトラウマを持ってしまったナァーザの持つ魔法の詠唱にはそれが現れていますね。

 

 

 

 ここまでいくつかの事例を紐解くことで、『スキル』と『魔法』の発現について何となく結論を出すとすれば、

 

『先天的なスキル、魔法は、才能、血統の影響を受けるため、良くも悪くも強力なものが発現しやすい傾向がある』

『後天的なスキル、魔法は、本人の経験、性格や性質によって発現するため、本人と噛み合ったものが発現しやすい傾向がある』

 

 

『よって、才能がある人が、過酷な経験を積むことが、もっとも先天的、後天的に強力なスキル、魔法の構成になりやすい』

 

ということになるかと思います。